2015年4月6日月曜日

濁流




濁流



ビニール傘に雨粒が激しく
打ち付ける音に合わせる様に
氾濫した川の轟音が僕の耳に響いている

足元は、水しぶきが地面からの
跳ね返りで長靴の中まで濡れて
気持ち悪い感触が
素足に伝わって来る

日曜の昼間なのに
ドス黒く厚い雲が空を覆い
辺りは薄暗く川沿いの
住宅地も人気が無く
僕だけしかいなかった

町の人は、大雨の時は
氾濫した川には危ないから
近づかないし外には出ない

でも

毎年数名が濁流に流されて
数キロ先で遺体となって発見される

濁流に惹きつけられる様に
川を見に来る者が数名いるからだ

僕もそのうちの1人だ
小さい頃から
この川の氾濫を見て来て
中学生になった今でも
必ず見に来てる

川沿いで茶色く濁り
まるで生きてるかの様に蠢く濁流に
魅せられて惹きつけられる

激しく荒波を立て
何もかも嫌な物まで
飲み込んでしまい
遠くまで流してくれる
力強い濁流 を見るのが好きだった

母親には
「川に近づいたら
危ないから近ずいちゃ駄目よ
先週も流せれて
遺体で発見されたんだから」と
言われていたが

友達の家に遊びに行くと
嘘をついて
川沿いの濁流を見に来た

僕には友達がいない
母親には、心配させたくないから
嘘をついている
女手一つで育ててくれた母親
父親はこの川で溺れて死んいる

母親は、僕もそうならないかと
いつも心配している

流石に
先週に人が亡くなっているせいか
僕だけしか見る者いないと
思っていたら
赤い傘を差した6歳ぐらいの
女の子が歩い来るのが見えた

あの女の子も僕と同じ
濁流を惹きつけられて
来てるのだろう

川沿いに近づき
好奇心の目で濁流を見ている

僕は女の子に近づき声を掛けた

「こんにちは
君も、川を見に来たの
親御さんは?」

突然声をかけたせいか
女の子は
顔を隠す様に伏せて
怯える様に首を横に振り

「.......お母さんが
近づいちゃ駄目て言ってたけど
どうしても見たくって
黙って来ちゃったの」と
言ったまま黙ってしまった

僕は女の子に怖がせないように
微笑みかけて
「僕も同じだよ
怖がらないで
母さんに川に近づくな
と言われたけど
黙って来ているだよ

君と同じだよ
川の濁流を見るのが好きなんだ
川が氾濫すると
必ず見に来てるだよ」と
言ったが
女の子の顔は伏せたままで
体が震えていた

僕は、心配になり
「大丈夫かい?
どうしたの」と聞くと
女の子が僕に聞いて来た

「お兄ちゃん
この前もここ来てたよね」

「うん、なんで知ってるの」

「あのね.......私も来たの
お母さんに黙って川に

そしたら
お兄ちゃんがいたの

あとね
もう同じぐらいの男の人
いたでしょ

お兄ちゃんが後ろから
その人を押すの見ちゃったの」

.......見ていたのか
先週流れた遺体は
僕が流した奴だ

僕を虐めていた同級生
彼も氾濫した川を見に来ていた

僕は彼に後ろから近づき
ゴミを捨てる様に
濁流に飲み込ませた

「その事を誰かに話したかい?」

女の子は顔を横に振りって
僕の方に顔を向けた

「誰にも言ってない
お母さんにも言えない
お母さんに言ったら
川に近づいた事怒らて
打たれるから」

女の子の左目に
濃くドス黒い青い痣が
出来ていた

僕が
幼い時に父親にやられていたの
と同じ痣だ

僕は、女の子の頭撫でて
氾濫する川を見ながら
女の子に言った

「この川が大雨で氾濫する時
自分の周りにある
嫌な物を全部流してくれるんだ
なんでも流して遠くに捨ててくれる」

「なんでも流してくれるの?」

「そう.......なんでもだよ
僕は小さい頃から
この川に流して来た
ゴミみたいな人間を」

「流されるとそのゴミは
何処に行くの?」

「川の流れる先にある
ずーっとずーっと遠くの場所
ここには戻って来れない
遠く場所だよ」

女の子は、満面の笑みを浮かべて
僕に笑いかけた

「お兄ちゃん
教えてくてありがとう」

「礼はいいよ
そうだ、そろそろ帰らないと
お兄ちゃん出来る事があったら
なんでも言うんだよ」

「大丈夫だよ」

「.......そうか
じゃあね」

僕は、女の子に背を
向き歩き出した時
微かな水音がした

振り向くと
そこには持ち主がいない
赤い傘が転がっていた

女の子は、濁流に導かれて
遠くに行く事を
選んだらしい

僕とは違う
選択をした

辛い現実から逃げ出し
ずーっとずーっと遠くの場所に

女の子の姿を探したが
見えなかった
もう、遠くに行ってしまったんだろう

僕は
地響きをあげる濁流を見ていた

0 件のコメント:

コメントを投稿