2016年12月22日木曜日

歯車

歯車



これは

運命の歯車に、狂わされた男の話だ。



歯車と言っても、色々ある。

幸福の連鎖と、言うか

いい事が、数珠つなぎで起きる事や

それとは、逆に悪い事が、感染して起きる事


今から話す

この男は

運悪く後者の方のお話だ。




その男は、今

日本海の自殺の名所とも

言われている

断崖絶壁に立っている。


男のつま先には

三十メートルの下降に

吹き飛ばされそうな風と

荒れ狂う波が打ち付けてる。


この波の呑まれたら

死体が粉々になり

海の一部とかすだろう



男は右手に持ってるいる

紙を強く握り締めた

この紙は

ここで自殺するはずだった男の

最後の書き置きであった


憎しみか..

悲しみか...


ただ、男の前に広がる

薄暗い雲のかかった

地平線の日本海を睨んでいた


そこに

一人の老人が声を掛けて来た


「何をしてるんですか?」

男が振り返ると

70代ぐらいの老人が笑みを

浮かべて和かに話を掛けて来た


その老人の笑みは

警戒心を解く為の手段なんだろう


男は、老人に軽く会釈をして返した


「ちょっと

ここに用事がありまして」


「ほう

用事ですか?

ここに用事がある人は

亡くした人の弔いか...

それか....何かも捨て去る人しか

来ないですよ」


「弔いですか...近いものが

あるかもしれませんね

実は、貴方の事を知ってるですよ」


男は、老人の背後にある

雑木林の中にある

よく工事現場である

仮設公衆トイレぐらいの

ベニヤ板で出来た

小さな小屋を指で刺し


「ここは

有名な自殺の名所で

そして貴方も有名な、おじいさん

わざわざあんな所に監視部屋まで

作って

自殺する人を説得?

嗜める

変わったお人好しですよね」


男の、その棘のある言葉に

老人は

顔色変えずに和かな笑みは

崩れなかった

数々の自殺する人の中には

罵倒する者もいただろう

要は、場慣れと言う奴かもしれない


「もしかして

私に会いに来たんですか?

取材とか何かで?」


「近いかもしれません

こんな辺鄙で、分かりずらい場所

ここに来るまでに大変でした


道迷い

民家も見当たらず


やっとの思いで

民家を一軒見つけまして

そして、この場所まで教えてもらい

おっと

話が逸れました


二週間前に

ここに

20代ぐらいの眼鏡を掛けた

青白い痩せ型の男が、来ませんでしたか?」


「来たよ

なんでも

会社のノルマとかイジメとかに

生き地獄で

辞めるにも辞められず

苦労して入った大手企業で

親の期待にもかかっていたそうじゃが


その若者に

無理しないで

会社を辞めたっていいじゃないか

息子が生きてるだけでも親は、充分だと

思ってる

死んだら、親が一番悲しむと

説得したら


泣きながら

頷き、帰って言ったよ

まさか、貴方

あの若者の知り合いなのか?」


「いいえ違います

この手紙の持ち主ですよ

その青年は」


男は、右手に握り締めて持っていた

書き置きを老人に渡した


老人は、書き置きを書いてある

字を目で追いながら

顔から血の気が引き

表情が強張った


「これは?」


「遺書です」


「そ......そうなのか!」


「青年は

その遺書に書いたあるとうり

あれから

会社を辞めてます


そしたらどうでしょう

親から罵倒され

勘当され


挙句の果ては...勤めていた

会社から飛び降り自殺ですよ」


老人は膝から崩れ堕ち

遺書に涙を零した


男は蔑む様に老人を

見下ろし


「そしてねぇ..


「そして?」


「死んだのは、一人じゃないんです

死んだのは2

いや

3人なんです


私と妻が

飛び降り自殺した

会社の近くで働いていて


その日は

寿退社で職場の同僚や上司から花を

両手抱えて視界が悪かった

お腹にも三カ月の赤ちゃんがいて


私が心配して

『花を持とうか?』と言っても

『いいの、大丈夫これから

お母さんになるからこれぐらい平気』と

笑い掛けてくれたんです。


そんな

帰宅途中でした


何かが

私の横に降って来たんですよ

私の横には妻がいたはず


横を振り向いても

妻は、いなかった


その代わり

下を見たら


散らばった無数の花弁と

二つの塊

おびただし血が広がっていました


二人...いや

3人共即死でした


妻の葬儀には

自殺した青年の両親が

来ました

その遺書を持ってね


責任転換ですよ

何度も

『本当は自殺の名所で、死ぬはずだった』

『この手紙の爺さんが止めなければ』って

自分の息子を死に追いやったのにね


酷い話じゃないですか

ハハハハハァ」

男が乾いた高笑いをした


その笑い声は

高波と強風とまるで

共鳴してるかの様に

老人の耳に響いた


老人は、男の足に縋りつき

聞いた


「どうすばいいんじゃ

どうすれば許される?


私が悪かったのか?

ただ、残りの余生は、人の為に

使いたかった

それだけ

ただ、それだけの...

ワシが、死ねば許されるのか?」


老人は、男の足に縋りながら

岸壁の下を見下ろしたが

男は、老人の肩に手をやり

首を横に振った


「死なないから

生きているから

何でも許される

上手く行くとは限りません

生きるのも苦しみ伴う


出来れば

私と同じ苦しみを味わって貰いたい


そうだ

ここに来る前に


道迷い

民家に道を聞いたと言ったでしょう

その民家

貴方のお家でした


貴方そっくりの

優しそうな

お人とでね

貴方の事をベラベラと聞かせてくれました


『うちの主人は、偉いとか』

『人の為にやってる、仏様みたいな

人だとか』


その話を聞いてるうちに

胸の奥底で黒い物が、湧き上がってね

みんな自分勝手な事を言いやがって

憎しみとか言う奴なんでしょうか


本当、無意識のうちにですよ」


「無意識?」


男は、両手を老人の首に

閉める真似をした


「同じ苦しみ」


「うわああああああああ」


老人は、男の両手を振り払い

体当たりして


男が、ふっと

浮き上がり、そのまま

吸い込まれる様に

落ちていった





この話は、ここで

お終いです


何故か?

私が今落ちているからです


そう

この運命の歯車に狂わされた

男は、私です


この先

老人がどうなったか

分かりません


ただ

感謝しています

これで

妻と赤ちゃんの元に行けると思うと

安堵に満ち溢れています


自殺をしたら

地獄ヘ行くと子供の頃に聞いた事があります


出来るなら

殺されたい


そう思い

おじいさんの妻を殺した

振りをしただけです


確かに殺したいと

思いましたが

地獄に行っては

二人に会えません


これで

運命の歯車から解放される



私は

老人が、ただ目を丸くして

此方を見てるのが

段々と老人の顔小さくなり

遠ざかって行くのが


スローモーションの様に見えます


この先、老人は

どうなるのか?


もう

どうでもいい

貴方は、最後の余生を人殺しの犯罪者として

生きて下さい


私は

死を受け入れる為に

静かに目を瞑った








2016年9月9日金曜日




僕は、映画監督になるのが
夢だった

誰からも絶賛される
知らない者などいない
有名な映画監督に

夢を諦めず
自主映画を撮り続けて
いれば、いつか夢は
叶うと信じて

作った作品はネットの動画サイトに
載せたら
観覧してくれた人からは
どれも好評だったが

再生数は、伸びず
話題にもされない

それだけじゃ
食っては、いけなかったし
生活も出来ない

最初は、夢を一緒に追う仲間も
沢山いたが

年を重ねる毎に
夢を追う事に疲れ
現実の世界に向き合い
仲間が減って行った

自分も
もう夢を追うのは
止めよと
諦めかけた時

悪魔に出会った
黒づくめの
雪の様な冷たい白い顔の男

「お前の夢を
叶えてやろうか?」

正に悪魔の囁きだった

「ただし、条件がある
おまえの一番大事な物が
失われる

それは
何かは言わない

無くなってからの
お楽しみだ

どうだ?」

もう
どうでも良かった
僕の人生は
映画が全てだった

映画のない人生を
おくるよりかマシだと思い
二つ返事で
悪魔の契約にサインした


それから
みるみるうちに僕の周りの
事態は変わっていた


動画サイトの僕の作品が
メディアに取り上げられ
再生数が、なだれ込み

有名な映画会社からの
オファー
スポンサーも
我先にと争う状態

週刊誌の謳い文句は
(100年一度
いや!1000年に一度の映画監督)
(世界の黒沢をも抜く監督)と
褒めちぎった

出す映画は全てヒット作

だが

僕の作った映画は
どれも駄作だった

浮かぶアイディアは
どれも稚拙で他の映画の焼き回し

撮るアングル
カット割りも上手くいかない

でも
映画会社やスポンサーに
期限を急かされ
ベルトコンベアーの流作業の様に
ゴミみたいな作品を量産しては

評論家が絶賛した

言葉とは上手いもんだ
どんな駄作でも
褒めようと思えば
褒める事が出来る

不思議な事に
ネットのレビューで誰一人
叩く人は
いなかった

そして
ついに

異例の
日本人初のアカデミー賞
受賞

受賞式会場の控え室で
苛立ちを隠せなく
酒を煽り
「これから受賞式なのに
止めた方が...」

「うるさい!
俺を誰だと思ってんだ!」

スタッフに当たり散らしていた

今や
世界のナンバーワンの監督
誰も歯向かう者は
いなかった

それすらも
苛立ちの要因になっていた

そこに
聞き覚えのある
あの声がドアの向こうから
聞こえてきた



「いや〜おめでとうございま〜す
日本人初のアカデミー賞受賞凄いじゃないですか?
おめでとうございま〜す
パチ、パチ、パチ」

悪魔だ

わざとらしく
両手を大きく広げ
鳥が空へ羽ばたくみたいに
拍手を送られた

「あんたは..
皆んな
出て行ってくれ
こいつと
二人きりで話したい」

スタッフ全員を
部屋から追い出した

悪魔は、私の直ぐ横まで来て
「どうです?
夢は、叶って?
今じゃ、世界中の皆知る
夢な映画監督になれて

あれ?浮かない顔ですね?
もっと喜んでくださいよ〜
夢、叶ったんですから」と
賞賛の言葉を言っていたが
明らかに違った
見下す様な軽蔑の視線
俺の心が見透かされてる

その視線に耐えられず
酒の入ったグラスに
視線に合わせて悪魔に聞いた

「俺の撮った
作品見たか?」

悪魔は
鼻で笑いながら

「見ましたよ」

「どうだった?」

「あれは?映画ですか?
どっかの家庭で撮った
糞つまらないホームビデオ..

いや
ホームビデオにも
失礼なぐらいの
ただの映像です」

「そうか...」
本当の事が聞けて内心ホッとしていた
皆が絶賛するのが
逆に苦痛の何者でも無かった

「当たりまえですよ
私は、貴方から

そうそう
何を貴方から頂いたか
ご存知だと思いますが」

「映画の才能だろ」

「ご名答でございます」

分かっていた
嫌でも気づく

何を撮っても
脚本書いても
映画に携わる事全部が
楽しくと何とも無かった

何もかもが
力が抜けていき
項垂れる俺を
悪魔が無理やり立ち上がらせ

「さぁさぁ
有名なスター、監督、スタッフ
観客、評論家、テレビの向こうの
人々が
皆お待ちですよ」

「ああ...」

体から芯が抜けた様に
ふらふらと
悪魔に支えられながら
部屋を出て

悪魔は近くのスタッフに
俺を受け渡し
今度はスタッフに
支えられて

悪魔が去り際に
楽しそうに囁いた

「そう言えば
貴方の全ては映画でしたよね

でも
今から受賞するのは
映画なんて呼べる代物じゃない
貴方は何を撮っていたのでしょうか?

今貴方の全て何でしょうかね?

空っぽ
何もかもない空っぽ」

受賞会場に辿りついた時
拍手の嵐が起きたが

その音は

まるで
俺の事を
小さな虫を
叩き潰す様な音に聞こえた