12時を指した時
彼の体の温もりと別れてから
どれぐらい時間が
過ぎたんだろうか
ついさっきの様な
それとも遠い昔の様な
曖昧な感じ
デートの帰り道を
用も無いのにコンビニに寄ッたり
出来るだけ 遠回りをしながら
重い足取りで
自宅のアパートの
玄関前まで帰ってきった
右手で
鍵を差し込み
回すことを躊躇している
帰りたくない
この扉を開ければ今日と言う日が
終わってしまう
寂しさと恐怖に近い感情が
胸から沸いて来た
鍵を抜き
カバンの中にしまい
代わりにスマホを取り出して
LINEを開いた
一時間前の受信
(お誕生日おめでとう
今日は、楽しかったよ)と
書き込まれていた
あれから
一時間が経っている
今日は、私の誕生日
一年で1回しかない特別な日
これで
終わってしまうの?と
心の中で何度も唱えていた
いつものデートなら
気持ちを
押し殺して我慢出来るのに
今日だけは
気持ちが乾きに似た
ザラザラとした騒(ざわ)つきが
収まらまい
私の甘えなのか?
彼を引き留めて
夜が明けるまで温もりを感じて
いたい
無理なのは分かってる
愛する妻を持つ彼を
引き留めるのは無理な事を
初めは割り切った関係
だったはずなのに
面倒のいい上司と
それを慕う部下の関係から
軽い弾みで始まった情事
彼の奥さんに罪悪感を
感じながらも
それが返って刺激になって
私を快楽へと湿らせた
そのうち快楽よりも
体を重ねる毎に少しづつ
心が彼に染まっていくのが
怖かった
面倒くさい女と
思われたくない
今、彼は、家にいて
その側に奥さんがいる
どうしても今の気持ちだけでも
彼に伝えたっくて
指が勝手に文字を
打ち込んでいた
(寂しい)
打ち込んで少しは
気持ちが楽になった
スマホを鞄にしまい
鍵を出そうとした時に
スマホのベルが鳴った
取り出すと
既読と文字が現れていた
(どうした?)
(ごめん.........今、奥さん
大丈夫?)
(大丈夫、あいつ
風呂入ってるから)
(良かった
暴露たら大変だもんねぇ
今日は楽しかった
貴方の体の温もりが
まだ
残ってるよ
なんか寂しくなっちゃって
少しでもいいの.....)
文字を打つ指が止まらなかった
この言葉を入れちゃ駄目だと
分かっていたが
押し殺していた言葉が
抑えられず
溢れ出てしまった
(会いたい)
文字が霞んでいた
後悔の念に押しつぶされそうで
苦しくって
目に涙が溜まったいた
嫌われたかも
しれない
既読だけがついても
返信は、中々来なかった
「ごめんねぇ
嘘だよ」と打ち込んでいる途中で
返信が来た
(いいよ
◯◯駅の前で待ち合わせで
いい?)
(本当?いいの?)
(あいつには適当な言い訳してから
行くよ
会おう)
(ありがとう
直ぐに行く)
口から吐き気に似た
嗚咽みたいな声が漏れそうになり
両手で口を塞ぎ
泣き声を殺した
心の奥底から出る
歓喜の感情
自分自身に
今日だけは....今日だけは
いいよねぇと
言い聞かせて
腕時計を見た
11:30
まだ
今日は、終わっていない
スマホを握り締めて
逸る気持ちを抑えながら
早足で駅に向かった
駅前に着くと
終電から出た来た
人の群れが改札口に疎らにいた
私は
彼に直ぐに見つけて貰う様に
銀色のシンプルな
丸い時計台の前に立って
改札口を見ていた
疲れきったサラリーマンや
仲間同士騒いでる大学生
誰かと待ち合わせなのか
私と同じ様に
辺りを見回す女性
彼の姿が
中々見つけられなかった
スマホが鳴り
画面には文字が表示されていた
(何処にいるの?)
(時計台の下だよ
もう、いるの?)
(いるよ)
(何処?)
(直ぐ近くだよ)
ドカ
誰かが私にぶつかって来た
瞬時に謝ろうとしたけど
右の脇のお腹に熱い物を感じた
ぶつかって来た人の顔を
覗くと
辺りをを見回していた女性だった
女性の顔は
怒っているのか
泣いているのか分からない
顔の中心にに皺を寄せた歪んでいて
私の顔を睨んでいる
女性の
手を観ると右手に彼のスマホを
持っていた
左手は紅い手袋をしてるのか
真っ赤に染まり
何か握っている手で
私の右の脇に何かを
擦りつけている
それに合わせて
私の脇の
体内で何かが動いていた
熱い
脇から熱さ全身に広がって行く
これは私の血だ
女性が
静かで冷静な声で
「渡さない....渡さない....」と
呟いている
私は
やっと自体が把握出来た
さっきのLINEの
やりとり
彼じゃなく
奥さんとだったんだ
こんなはずじゃなかった
悪いのは全部私
奥さんも彼も悪くない
奥さんに
「ごめんなさい」と
謝りたかったけど
もう声が出なかった
奥さんが私の体から
包丁を引き抜くと
血がドクドクと溢れ出し
アスファルトの
地面に血が広がって行く
私は、奥さんの体を
引きずる様に崩れて倒れた時
最後の視界に
時計台が12時を
指しているのが目に映った
私の誕生日が終わった