2015年7月18日土曜日

12時を指した時

12時を指した時




彼の体の温もりと別れてから
どれぐらい時間が
過ぎたんだろうか

ついさっきの様な
それとも遠い昔の様な
曖昧な感じ

デートの帰り道を
用も無いのにコンビニに寄ッたり
出来るだけ 遠回りをしながら
重い足取りで
自宅のアパートの
玄関前まで帰ってきった

右手で
鍵を差し込み
回すことを躊躇している

帰りたくない
この扉を開ければ今日と言う日が
終わってしまう

寂しさと恐怖に近い感情が
胸から沸いて来た

鍵を抜き
カバンの中にしまい
代わりにスマホを取り出して
LINEを開いた

一時間前の受信
(お誕生日おめでとう
今日は、楽しかったよ)と
書き込まれていた

あれから
一時間が経っている

今日は、私の誕生日
一年で1回しかない特別な日

これで
終わってしまうの?と
心の中で何度も唱えていた

いつものデートなら
気持ちを
押し殺して我慢出来るのに

今日だけは
気持ちが乾きに似た
ザラザラとした騒(ざわ)つきが
収まらまい

私の甘えなのか?

彼を引き留めて
夜が明けるまで温もりを感じて
いたい

無理なのは分かってる
愛する妻を持つ彼を
引き留めるのは無理な事を

初めは割り切った関係
だったはずなのに

面倒のいい上司と
それを慕う部下の関係から
軽い弾みで始まった情事

彼の奥さんに罪悪感を
感じながらも
それが返って刺激になって
私を快楽へと湿らせた

そのうち快楽よりも
体を重ねる毎に少しづつ
心が彼に染まっていくのが
怖かった

面倒くさい女と
思われたくない
今、彼は、家にいて
その側に奥さんがいる


どうしても今の気持ちだけでも
彼に伝えたっくて

指が勝手に文字を
打ち込んでいた

(寂しい)

打ち込んで少しは
気持ちが楽になった

スマホを鞄にしまい
鍵を出そうとした時に
スマホのベルが鳴った

取り出すと
既読と文字が現れていた
(どうした?)

(ごめん.........今、奥さん
大丈夫?)

(大丈夫、あいつ
風呂入ってるから)

(良かった
暴露たら大変だもんねぇ
今日は楽しかった

貴方の体の温もりが
まだ
残ってるよ
なんか寂しくなっちゃって
少しでもいいの.....)

文字を打つ指が止まらなかった
この言葉を入れちゃ駄目だと
分かっていたが
押し殺していた言葉が
抑えられず
溢れ出てしまった

(会いたい)

文字が霞んでいた
後悔の念に押しつぶされそうで
苦しくって
目に涙が溜まったいた

嫌われたかも
しれない

既読だけがついても
返信は、中々来なかった

「ごめんねぇ
嘘だよ」と打ち込んでいる途中で
返信が来た

(いいよ
◯◯駅の前で待ち合わせで
いい?)

(本当?いいの?)

(あいつには適当な言い訳してから
行くよ
会おう)

(ありがとう
直ぐに行く)

口から吐き気に似た
嗚咽みたいな声が漏れそうになり
両手で口を塞ぎ
泣き声を殺した

心の奥底から出る
歓喜の感情

自分自身に
今日だけは....今日だけは
いいよねぇと
言い聞かせて

腕時計を見た

11:30


まだ
今日は、終わっていない

スマホを握り締めて
逸る気持ちを抑えながら
早足で駅に向かった

駅前に着くと

終電から出た来た
人の群れが改札口に疎らにいた

私は
彼に直ぐに見つけて貰う様に
銀色のシンプルな
丸い時計台の前に立って
改札口を見ていた

疲れきったサラリーマンや
仲間同士騒いでる大学生
誰かと待ち合わせなのか
私と同じ様に
辺りを見回す女性

彼の姿が
中々見つけられなかった

スマホが鳴り
画面には文字が表示されていた

(何処にいるの?)

(時計台の下だよ
もう、いるの?)

(いるよ)

(何処?)

(直ぐ近くだよ)

ドカ

誰かが私にぶつかって来た
瞬時に謝ろうとしたけど
右の脇のお腹に熱い物を感じた

ぶつかって来た人の顔を
覗くと
辺りをを見回していた女性だった

女性の顔は
怒っているのか
泣いているのか分からない
顔の中心にに皺を寄せた歪んでいて
私の顔を睨んでいる

女性の
手を観ると右手に彼のスマホを
持っていた

左手は紅い手袋をしてるのか
真っ赤に染まり
何か握っている手で
私の右の脇に何かを
擦りつけている

それに合わせて
私の脇の
体内で何かが動いていた


熱い
脇から熱さ全身に広がって行く

これは私の血だ

女性が
静かで冷静な声で
「渡さない....渡さない....」と
呟いている

私は
やっと自体が把握出来た
さっきのLINEの
やりとり
彼じゃなく
奥さんとだったんだ


こんなはずじゃなかった
悪いのは全部私
奥さんも彼も悪くない

奥さんに
「ごめんなさい」と
謝りたかったけど
もう声が出なかった

奥さんが私の体から
包丁を引き抜くと
血がドクドクと溢れ出し
アスファルトの
地面に血が広がって行く

私は、奥さんの体を
引きずる様に崩れて倒れた時

最後の視界に
時計台が12時を
指しているのが目に映った


私の誕生日が終わった








2015年7月7日火曜日






俺の目の前で
一件の木造住宅が
半分以上が炎に包まれている

二階建ての
古びた木造の家は
屋根よりも炎が高くうねり
まるで生命の意思を持った様に
バチッバチッと木が
軋む音を鳴らして
野次馬を威嚇してる様に見える


野次馬共に視線を向けると
目に焼き付ける用と大きく
瞳孔を開き
口を閉じるの忘れて半分開き
神秘的な神を
見るよな視線を送る者や

年配の主婦が集まり
忙しなく口を動かしてる
「怖いわね〜」
「また、放火犯の仕業かしら」
「あそこお家おばちゃんが
1人でいるんでしょ〜
逃げ遅れてるみたいなの
可愛いそうに」と
哀れみ言いながら時々
口元が緩んみ笑みが見える

楽しそうで何よりだ

私は、群がる野次馬共に向けて
「面白いだろ?
楽しくってしょうがいないだろ?
俺が、やったんだと」と自負を
喉まででかかったが抑えた

俺が
火をつけたのさぁ

ここ最近起きてる
4件の放火事件は、俺が犯人だ

退屈の日々が続く
事件や事故の起こらない
草臥(くたび)れた町

ここの住人共は
心の中で、何か起きないかと
密かに思ってる癖に
口に出さずに
同じ日々を
ただ、無駄に時間だけが過ぎている

だから
俺が、この周りを真っ赤に照らし
何もかも灰にする荒ぶる炎を
住人共に見せつけてやってる

賑やかな
お祭りがあるみたいに
人々が集まり
キャンプファイヤーの様に
火を囲み
神秘的な炎に心を奪われてる
感謝して貰いたいぐらいだ

この町は年寄りが多く
古くからの木造建築が
彼方此方に転々と佇んでいる

ここの婆さんも
そうだが
俺が親切に
「最近放火を多発してるから
玄関先に新聞紙置いちゃ駄目だよ」と促(うなが)しても

「そうですね〜ぇ
分かりました〜」と
口では、言うがやりやしない

なんの根拠があるか
知らないが自分の所は
大丈夫だと思っている

放火されても
自業自得だ

俺の放火のやら方は
町が寝静まってる
深夜4時にベットから抜け出し

あらかじめ
下見をして狙いをつけた
木造住宅の玄関先に置いてある

雑誌や広告や新聞の束に
ジッポーオイルを垂らして
マッチを投げ入れる

また、直ぐに戻り
ベットもぐり込む

自分の心臓の鼓動が早くなり
胸を鷲掴みにして
荒くなる呼吸を抑えながら
目を瞑り
ベットの横にある窓に
耳を集中させる
そのうち、町中がざわめき
始める

お祭りの始まりだ

放火現場に行くと
まるで神でも崇める様に
野次馬共が群がっている

もっと燃えろ

何もかも焼きつくして
しまえ!


でも
やがて消防士が
火を鎮火させて
水浸しになった
真っ暗に焼けた家の骨組みと
死体を残して
祭りは
終焉を迎える

俺は煤で黒くなった顔で
立ち尽くしていた

祭りを終えた
充実感と住民の感謝の声で
自尊心が満たされていく





「消防士ありがとう
ございます」


俺は
住民に向かって
心の底から出る
笑顔で答えた

「礼は、いりません
消防士として義務を果たしたまで
です」