2015年5月24日日曜日

おまえ

おまえ



目を開けるとピントの合わない
カメラみたいに視界がボヤけていた
徐々に視界が鮮明になり
知らない白い天井が見えた

ここは何処だ?
知らないベットで寝ている
何故ここにいる?

ベットの横で
知らない女が此方を見て
座っていた

何度も
「ごめんないさい
ごめんないさい」と悲しい顔で
泣きじゃくりながら謝っていた

知らない女が
何故、私に謝っいるんだ?

「すみません
ここは何処ですか?」

「え?病院です」
知らない女が驚いた表情をした

「病院か
私は何で病院にいるんですか?
私は......私は......誰ですか?」

頭も中が霧がかかった
様にボヤけて
何も思い出せない


「記憶がないの?
頭を打って記憶喪失になったのね
本当にごめんなさい!」

知らない女は
さっきの悲しみとは違い
悲痛な顔浮かべているが
一瞬
口元が緩み、笑みを表した
その素振りを隠すよに
私の手を強く握りしめて

「ごめんなさい
私のせいで
愛する夫をこんな目に
合わせて
ごめんなさい」と
また、何度も謝り始めた


私が何で病院にいるか
女から話しを聞かされた


私と女は、夫婦で
昨日の夜
家の中の玄関前で
些細な事が原因で
激しく言い争いになり


女....いや妻が
感情的に怒ってしまい
両手で私の事を突き飛ばした

私は、バランスを崩し
後ろに倒れてしまった時に
運悪く
壁に後頭部を強打して
意識を失って動かなかったらしい

揺さぶっても
起きない私に
妻は慌てて110番に電話して
病院に担ぎ込まれたみたいだ


私の頭に包帯が巻かれていて
確かに中央の後頭部辺りが
ズキズキ嫌な痛みがする

その痛みは、我慢出来たが
何かを思い出そうとすると
強烈な痛みが襲ってくる


思い出せない
名前も、住所も、親の事も
妻の事も、私の事全部が

医者には
外傷による一時的な記憶障害で
無理に思い出さなくっても
何かの切っ掛けで
全部を思い出す事があるから
ゆっくり治療しましょうと
言われた

今、私の過去を知ってるのは
妻しかいない


妻に私の事を色々聞いた

自分の名前、

どんな職についてたか
職場には妻が電話して
事情を説明して
有給を使っているみたいだ

自分の両親は、二人共
昔に死別してる事

私の食べ物の好み
趣味や癖

何を聞いても実感が湧かない
他人事の様に聞こえる

困惑してると
妻が悲しい表情を浮かべた

「ごめんなさい
全部私のせいなの
アナタを怒りに任せて
突き飛ばして
記憶喪失になるなんて
本当ごめんなさい」

「もう謝らないで
ください
大丈夫ですよ
思い出しますから
先生も言っていたじゃないですか
何かの切っ掛けに
思い出すかもって

それに
喧嘩で起きたハプニングですし
貴方がわざとやったわけじゃ
ないですから

そうだ
喧嘩の原因は
なんだったんですか?
何ついて
言い争っていたんですか?」

妻が、一瞬、口を噤む様な
表情を浮かべて

「大した事じゃないわよ
夫婦で
よくある些細な理由よ
それが、段々大きくなり
売り言葉に買い言葉で

喧嘩になっちゃたの
今まで、二人で溜め込んでいたのね
不満を
それが出ちゃったの

それより
リンゴ食べる?
アナタ好きでしょ」

「ありがとうございます」

何かを隠してる
そんな感じがした
思い出しそうとしたが
ズキズキと頭痛がして
何も思い出せない
頭を両手で抑えてると
妻が心配そうに覗き込んだ

「大丈夫?
無理に思い出さなくってもいいから

貴方が側にいてくれるだけで
私は幸せよ

あとね
他人行儀の言い方
もう、やめない?」

「そうですね........
ごめん
そうだな

なんか
言いにくくって

私は
いつも、貴方の事を
なんて呼んでいましか?」

妻は、林檎の皮を剥いてる手が
止まり
はにかんだ笑顔で
私を見つめて

「ほら
直ぐ他人行儀になる

いつもねぇ
私の事を
"オマエ"と呼んでいたわ
偉そうに
亭主関白だったわ」

「そうなんですか
私が偉そうにしていたんですか」

「またまた他人行儀
貴方が前を歩き
私が後ろからついて行く
貴方の背中を見て歩くのが
好きなの」

「なんか
そう言われると
恥ずかしい」

「ハイ、林檎
早く元気なって下さいねぇ」

妻が可愛く兎に剥いた林檎を
私に渡してくれた

それから
二週間妻は、献身的に私の
世話をしながら
二人の昔の思い出話をしてくれた

私の方から一目惚れをして
告白した話
色々な場所にデートに行った話

いっぱい喧嘩したけど
直ぐ仲直りする話

海辺でプロポーズした話
ハワイで挙式を挙げた事

妻は、思い出し笑いをしながら
懐かしむ様に話てくれた

話を聞く限り
仲の良いむつましい
夫婦に聞こえるが

あの日
記憶を無くした夜
私を突き飛ばすぐらいの
激しく言い争いをした原因が
なんだったのか?

気になって妻に
何度も聞いたが

いつも妻は
はぐらかして答えてくれなかった

医者から
後頭部の傷も完治したので後は
通院で記憶の方を治療しましょうと
言われて
退院する事になった

妻と一緒に帰り
マンションに着いた時

初めて
懐かしい感じした
頭が記憶して無くっても
体が覚えてるみたいで
自分の階や扉の前に行く事が出来た

「さぁ入りましょう」
妻が鍵を開けて
先に入り
自分が後から続いて玄関に
入った時

ここで、言い争いをしたのかと思い
玄関周りを見ていたら

激しい頭痛がして
右手で頭を抑えて
身体がよろめき
左手で壁寄りかかり

次々と記憶が蘇って来た
スライド写真みたいに頭の中で
現れて来て
霧がかっていた頭の中が
鮮明になった
全部の記憶が戻って来た

あの夜の出来事も

壁を抑えてる左手を見ながら
全てが分かった

「おまえ....」

「何?どうしたのアナタ
大丈夫?」

「おまえ....誰だ?」

私の左手の薬指には
結婚指輪などして無かった

知らない女が
人形みたいな表情や感情のない
冷たい顔で私を見ていた


あの夜と同じ様に







2015年5月11日月曜日

蜘蛛と少女



蜘蛛と少女





丁度いい場所にある
木の餌場を見つけた

どうも家の庭先みたいだが
手入れなんてされておらず
雑草が生い茂り
野花が彼方此方で咲いている
ここなら沢山の獲物が罠にかかりそうだ

木に糸を垂らして
糸を張り巡らさて
やっとのことで完成して
巣の中央で休んでいると
視線を感じた

人間に見られている

木の枝に作った巣の少し斜め下には
一階の家の小さい窓から丸見えだった

窓の枠に肘をついて
人間の少女が此方を
じっと見つめていた

失敗した
こんな所に巣なんか
作るじゃなかった

人間は、俺の事を忌み嫌う
醜顔をして俺の事を見て
俺が、せっかく作った巣も壊してしまう

でも
この少女は、違った
ただ俺の事を見つめていた
嫌悪感じゃ無い
好奇心のつぶらな目で見つめるだけ
だった

その少女は時々
俺に餌も与えてくれた

少女が虫籠を抱えて
俺の巣に近づき
籠から蝶を取り出し
俺の張った粘着してる糸に
置いてくれる

何故か少女は
蝶の羽を指でちぎってから置く

それも
笑いながら
何かを言葉を発してる

俺は、人間の言葉は分からない

俺が蝶に近づき
毒を刺し動けなくなった蝶を
糸で絡めて巻いた後
巣の中央に持って行き捕食する

その動作を
少女は飽きもせず見つめていた

少女が
何故こんな事をするのか
俺には、関係無いし
ありがたい事だが

少女が
今、捕食してる蝶に
似ている気がした

俺の巣に似てる家という巣
雁字搦めに見えない糸が巻きつき
身動きが取れず
逃げ出せない少女

夜になると
部屋の電気が消されて
少女が寝静まってる時
薄暗い部屋に少女よりも倍近くの大きさの大人の男が入って来る

布団を剥がし
俺と同じ様に少女の事を
貪り尽くす

少女の身体を至る所を
男の頭が蠢き捕食してる

少女は、目を開いて
無表情で言葉を発生ず
男の捕食が終わるのを
ジッと俺の事を見つめて待ってる
だけだった


ある日

いくら待っても
餌を運んでくれる少女が
来てくれなかった痺れを切らして

部屋を覗くと少女がいた

でも違った
少女じゃなかった

少女の形をした
抜け殻だった


少女は首から太い紐を垂らして
天井にぶら下がって
揺れていた

まるで少女の姿をした
蝶の繭に見えた

あれは
少女じゃない抜け殻だ
俺は少女を探した

少女の抜け殻の側を
一匹の白い蝶が羽ばたいていた

抜け殻の少女の周りを
舞っている

何故だか分からないが
少女だと思った

身体から抜け出して
蝶になったのか?

蝶は、数回
抜け殻を舞った後

窓から抜け出して
羽ばたこうしたが風に煽られ

運悪く
俺の巣の罠にかかってしまった

俺は、近づき毒を刺そうとしたが
何故か蝶は、藻がこうともせず
ただ、ジッと俺を見つめていた
まるで
男に捕食されてる時と同じ様に

部屋の扉が開く音が聞こえた
男は、少女の抜け殻を
呆然と立ち尽くし見てから
抜け殻の足元にしがみつき
酷い声で鳴き尽くしてる

それを見たせいなのか
何故だか分からない

俺は
蝶を粘着の糸から外して
逃がしてやった

あの人間の男と
同じ事をしたくなかったからなのか?

俺を忌み嫌わずに
餌をくれたお礼か?

自分でも分からないが
ただ
逃がしてやりたいと
思ってしまった

青い空を
自由に舞って行く
白い蝶を
見えなくなるまで
俺は見ていた