2015年8月3日月曜日

残り火



《残り火》




いつもの田舎町の静寂な川岸が
今日は違う風景に変わっていた

人混みの蒸せ返るような
熱気と屋台から独特のお祭り
匂いに苛立ちながら
忙しなく左右に首を動かして
周りを見渡していた

何処に行ったんだ
いつも彼女は
俺を置いていなくなる

俺は、地元の夏祭りに
行きたく無かった
地元の町内会が金を出し合い
些細な打ち上げ花火がある
酒屋である自分も
断る理由が無く毎年徴収される

都会の花火みたいに
何百発の花火は打ち上げ無いが
隣町からも人々が花火を
見に来てる

活気の無い町は
この時だけは、憂さを晴らす様に
賑わいを見せて
町内中が心躍る

彼女が、どうしても
一緒に行きたいと言うから来たのに
目を離した隙に
俺の横から消えていた

まるで迷子の子供だな
"あいつ"に似てる

普段の日常とは違う姿
着飾った葵アサガオ柄の浴衣姿で
俺を迎えに来た時は
ドキッとした
元彼女の投影を浮かべてしまった

夜空に咲き乱れる花火をが
いつもは心の奥底に
封じてる過去の思い出を
花火と共に鮮明に沸き上がる 

6年前の同じ日
最後の打ち上げ花火が
夜空に開いた時
元彼女は別れを切り出した

「都会の大学に進学する事に
決めたの」

打ち上げ花火を見上げながら
意思の強い横顔が
花火の光りで照らせれて
花火が散る共に暗闇に消えた

俺は、高校を卒業したら
親の跡を継ぎ酒屋になって
元彼女と
この田舎町に骨を埋めると
思っていたが
元彼女の意思は違っていた
この田舎町で人生を
終わりたく無い
可能性を試しみたいと
俺のもとから
この田舎町から去って行った

人混みの中から遠くの方に
後ろ姿の葵アサガオの浴衣が見えた

あんな所にいたのか
人の群れを掻き分けて
彼女の手を掴んで
「おい!やっと見つけ....」

振り返った顔は
彼女じゃなかった

元カノだった

高校時代は
垢抜け無かった化粧気の無い
昔の顔が都会の顔に

化粧が似合う
大人の女性に変わっていた
ピンク色の唇が
真っ赤な光沢感の口紅をつけている

よく見ると
浴衣は、今の彼女のデザインが違う
昔一緒に来ていた時の
葵アサガオの浴衣

突然の出会いで
頭の中から何か言葉を出そうと
したが気の利いたセリフが
出て来ず

「なんで....いるんの?」が
精一杯のセリフだった

元カノは
昔みたいに笑いながら

「両親が
たまには、帰って来いとか
煩くってねぇ
久しぶりに帰って来たの
変わら無いねぇ
ここも、貴方も」

そのセリフは
まるで、俺に出会うのを
分かっていたかの様に
滑らかに口から出て来た様に
見えた

「そうか
向こうで上手くやってるか?」

「大丈夫だよ
楽しくやってるよ」

元カノは
笑顔作りながらも
視線を下に逸らした

嘘をついてるいる

嘘をつくと
視線を逸らすのは
あの頃ままだ
懐かしくて嬉しかった

「おまえ、相変わらず嘘つくの
下手だな」

元カノが
真剣な眼差しで俺の目を
視つめて来て
「そんな事ないよ....
あのさぁ私達.....」と言いかけ時

「やっと見つけた
もう、勝手に何処か行かないでよ」

後ろから声が聞こ来た
振り返ると
彼女が顔を膨らまして
怒っていた

俺の顔を見て
彼女の表情が曇り始めて
俺の前にいる
元カノの存在に気がついた

「誰?この人」

慌てふためく気持ちを
抑えながら
「高校時代の同級生だよ
久しぶりにこっちに
帰って来たんだって」

元カノは彼女に軽く会釈して

「初めまして
高校の時の友達だった者です
なんだ
可愛い彼女がいるんじゃない
この幸せ者」

元カノは
俺の肩を軽く叩きながら
目の奥を潤ませながら
笑っている

「邪魔者は去るねぇ
バイバイ」

背を向けて
また、俺の前から去って行く

「え....おい待てよ」と
追いかけようとした時
手首を強く握る感触を感じた

振り向くと
彼女が強く俺の手首を掴みながら
俯いてる

「行かないで」
微かな声で彼女が囁いた

聞き取れたが
「なんか言った?」と
聞き返した

彼女は、首を横に振り
「ううん
何も言ってないよ
可愛い同級生だったねぇ
あ、花火」

その時
花火が打ち上げられた

高い音鳴らし
光りの線を夜空に引き

弾け飛びながら
丸い光りの花を咲かせてから
少し遅れて
体に響く音を鳴らした

俺と彼女と夜空を見上げていた
花火を見ながら彼女が不意に

「なんか
あの同級生て私に似ているねぇ」

俺の事を見透かされている
自分の気持ちを押さえ込み様に
彼女の手を強く握りしめて

「似てないよ....
おまえは
俺のそばにいるだろう」

「うん
行かない」

彼女が
強く手を握り返した

最後の打ち上げ花火の残り火が
パチパチと音を鳴らして
消えていった


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